取材日:2017年12月6日
NHKの番組制作を技術面からサポートする(株)NHKメディアテクノロジー様。このたび、ゴルフの生中継におけるハンディカメラをワイヤレス化するために、アイ・オー・データ機器のLTEルーター「UD-LT1」を導入されました。これまでは業務用カメラの色調整や絞りの調整が難しかったが、制御系統をワイヤレス化することで、どう映像表現が変わったのか。また、通信システムをどのように組んだのか。(株)NHKメディアテクノロジーの 井田善博様・佐川友介様、並びに通信インフラ担当のフリービット(株)の大曲雄介様にお話を伺いました。
井田様NHKの番組制作を技術面からサポートする会社です。中でも我々のチームは、中継番組をつくることに特化しています。
佐川様私はビデオエンジニアを担当しています。今回は映像機器のカメラの制御をワイヤレス化したいと私から井田に提案し、2017年秋のプロゴルフ中継にに導入させていただいた次第です。
井田様ケーブル総量で100km弱はあります。ゴルフ中継では、放送センターという中継基地をプレハブで建てるのですが、そこから各ホール、90ものカメラポジションまでケーブルでつないでいるのです。
佐川様ゴルフ中継をテレビで見ていると1台のカメラが選手について行っているようなイメージだと思いますが、そうではなくて、各ホールに固定のカメラがあって、それを順番に切り替えているのです。
井田様ちなみに今回、5番ホールから放送したのですが、合計90ポジションを57台のカメラがフォローしています。そのうちの1台、手持ちジンバル搭載の業務用カメラを、アイ・オー・データ機器さんのご協力で制御をワイヤレス化できました。1/57ですが、その1台はかなり多くのホールに行きます。選手にずっとついて行くわけですから。
佐川様映像と音声はカメラ側から放送センターに無線で伝送しています。生中継では、カメラマンが撮影した構図に対し、センターのビデオエンジニアがリアルタイムで明るさや色味を調整して番組制作を進めています。このため、業務用カメラをワイヤレスカメラとして使用する際のカメラ制御は長年の課題の一つでした。
佐川様ゴルフの場合、選手の顔を撮ったり、打球をフォローする際に空を撮ったり、明るさがすごく変わります。ワイヤレス化すると、明るくなってから絞るのではなく、カメラマンが移動しながら、明るくなる前に絞ることができる。カメラマンと息を合わせてコントロールできるようになりました。
佐川様ある展示会でアイ・オー・データ機器さんにお会いしたのがきっかけです。間をつなぐ通信インフラのフリービットさんもご紹介いただいて、ご提案いただいた次第です。
大曲様まず、放送センターにUD-LT1と回線をセットし、インターネットを経由して、弊社フリービットのデータセンターに通信を暗号化して送ります。そのデータセンターからドコモ網を使い、弊社のセキュリティSIMを挿したUD-LT1に通信を送り、LANケーブルでカメラにつなぐという構成です。
大曲様元々はセンター側、カメラ側どちらのUD-LT1もSIMで通信する予定でしたが、放送センターを建てた付近の電波が弱くて…。ゴルフ場はコース上はいいのですが、外れると弱い。かなり焦りました。
井田様裏が畑とお墓だったんです(笑)。
大曲様UD-LT1はSIMでも使えるし、光回線に有線でつなぐこともできるため、設置環境に合わせて「替えが効く」強みがありますね。
大曲様弊社の場合、通常のSIMに比べると通信のセキュリティを担保できるサービスになっています。ウイルスを未然に止めるとか、変なサイトにつながらせないとか。そこはご安心いただけたと思っています。
大曲様ゴルフ場の広いところで場所を選ばず、装備が非常に簡易で。専用の設備を必要とせずに、私たちが専用にコントロールできる環境をつくっていただき、非常にうまくいったと思います。
井田様我々としてはこれを今回の目玉の一つとして、社内はもちろんNHKにもアナウンスしていたのです。小さい一歩ですが実は大きな取り組みで。すごく活躍したね、という反応はありましたね。
佐川様映像表現って、通常のスポーツシーンだけでなく、例えば優勝が決まった時の選手の顔や家族の顔など、ドキュメンタリー的な要素が入ってきます。そうした時に、逆光や順光、日陰やひなた、さまざまな条件が変わっていく中で、もっとカメラの調整ができたらいいなという思いがあったんですね。
井田様普通のケーブル付きのカメラがあって、今回のカメラはいわゆる味付けのカメラなんですね。選手に肉薄し、競技をより近くで撮れる味付け。味付けなのにイマイチだったのが、本当の味付けに変えることができました。
佐川様逆に味付けなので撮るシチュエーションが変わる。固定のカメラに比べると調整する頻度が全然多いわけです。今回のワイヤレス化で自由に調整でき、すごくクォリティの向上に貢献できたと思いますね。
井田様提案を考えているのは大相撲。土俵のそばと花道の奥では全く違う照明なので。あとはスキージャンプなど。滑り降りてきた選手を、安全かつ機動的にもっと近いところで撮影したいです。
佐川様生放送で感動を呼ぶ映像表現をこれからも追求したいですね。