取材日:2019年3月8日
福島県新地町立福田小学校では、すでに一人1台のタブレットPC、全教室への電子黒板を導入。日本教育工学協会(JAET)より「2018学校情報化優良校」に認定されています。同校では、ICT機器を使うことが目的ではなく、対話して学び合うためのツールととらえて授業を進めており、その一環として「プロジェクターたっち」を導入されました。児童が自分のタブレットで調べた内容をデスク上に大画面で投影。その画面をみんなで囲み、話し手と聞き手がともに映像を手で動かしながら発表していく。そんな先進的な授業の様子をはじめ、導入への想いとその効果についてお話を伺いました。
島校長新地町では平成22年度に新地町がICT環境の導入を決め、本校にも一人1台のタブレットと各教室に電子黒板が入りました。そのあと文科省や総務省の事業の指定を受け、今日まで継続してきています。その都度、業者の方々に関わっていただき、ハード・ソフト両面で充実しています。視察に来られる他の自治体の方々や大学の先生方まで、「ほんとうに進んでいますね」との言葉をいただきます。
島校長とはいえ導入された当時は、まずICTありきだったんですね。どうしてもICTを使うことが目的になってしまい、中身である学習の成立というところに到達できていなかった。例えば、以前はタブレットで検索して、児童が自分の中で完結して終わりでした。それが今では、対話や学び合いのツールの一つとして活用できています。新地町では、ICTを使ってコミュニケーション力や思考力をつけようとしている。新地町が進んでいるのは、そこのところだと考えています。
佐々木教頭タブレットなら、友だちがどんな調べ学習をしているのか、どんなふうに考えをまとめているのか、瞬時に見せることができます。先生や児童が席を移動する時間をかけず、友だち同士のやり取りや、先生が児童それぞれの学びを的確に瞬時に見て取れるところに良さを感じています。
島校長一人1台持っているタブレットですが、子どもたちが自分でつくった画像を見せ合いするには画面サイズが小さすぎるんですね。先生方からも「もっと大きいタブレットがあったらいいね」という声がありました。そうしたら、みんなで寄ってたかって見ることができるのではないかと。ちょうどそんな折に「プロジェクターたっち」を試用できるという情報を教えていただき、導入をお願いしました。
佐々木教頭タブレットの小さな画面でも、電子黒板の大きな画面でも、児童全員でやり取りするには問題点があった。それが解消できるのではないかと思い、ぜひ使わせてもらいたいとお願いした次第です。
形岡先生今日の授業は「ワールドカフェ形式」といって、6年生のクラス17名が4つのブースに分かれて調べたことを発表し、聞き手がそれぞれのブースを回る形式をとりました。
形岡先生これまでの発表の授業では、子どもが教室の前に来て大きな電子黒板で話しますから、聞き手との距離感があったんです。「プロジェクターたっち」なら画面が近くにあって、1つの大画面を囲んで会話が生まれると思うんですね。しかも発表したあと、話し手と聞き手が直にやり取りできて、お互いが画像を手で動かしながら使える。その良さを感じています。
形岡先生発表して終わりではなく、考えを重ねていくということ。言いっぱなしではなく人に分かるように。人からの質問を踏まえてどう返すか。
島校長今日は6年生の発表を他の学年にも見せましょうということで、4年生全員にも来てもらいました。また、突然1年生や5年生が来たものですから、対象を誰にするか、説明が難しいところもあったと思います。だからこそ思考力とともに、表現力を養えると感じました。
島校長質問する側も「ここはこういう意味だよね」と画像を戻して振り返ることができる。そこが一番いいですね。子ども同士で主体的に機器を使って対話をして、学びが深まっていくと思いました。子どもたちはタッチパネルを使い慣れているので、同じ感覚ですぐ使えて、学び合いのツールとしておもしろいなと。
佐々木教頭隣に友だちがいるのに、小さな端末で黙って作業する。そんな授業ではなく、やっぱり囲いたい。新しい学習指導要綱で、主体的・対話的な学びという点がうたわれていて、その意味で今回の「プロジェクターたっち」はすごく効果があると思います。
形岡先生そうですね。これ、カードに強いと思うんです。カードを作っておいて、例えば国語なら「この文章はどこに入りますか」とか、「起承転結を並べ替えなさい」とか、「漢字のつくり・へん」を組み合わせるとか。子どもたちが画面を囲んで「こっちのほうがいいんじゃない?」とカードを並べ替えてワイワイできる。このサイズ感だからこその、イキイキとしたやり取りが期待できます。
佐々木教頭いろんな教科に応用できると思うんです。算数の図形を分解したり合成したり、友だち同士で対話しながらできる。まだ使い始めなので手探りで頭の中だけの話ですが。
形岡先生あと、社会科の地図や俯瞰図。ドローンなどを使えばもっと面白いですね。
佐々木教頭子どものほうから「こんな使い方できるよ」と提案してくれるかもしれません。そう言わせられるような活用力がついていければ、もっともっと自由度が広がっていくと思いますね。
形岡先生子どもなので映写部分の機械に触ってしまい、画像がずれる場合があります。支援員さんが付いている本校では、支援員さんに直してもらって授業に集中できますが。
佐藤支援員授業のマイナスにならないように対応しなくてはいけません。この商品に限らず、使えない状態になったとき授業が止まってしまうのがICTの一番の弱みというか。
佐々木教頭本校には常駐の支援員さんが2名います。役割はすごく大きいですね。今日のセッティングも支援員さんなしではできません。休み時間に担任が、となると負担が大きいので。
形岡先生あと、マルチタッチというか、何人かが同時に書けるといい。いろんな考えをブレーンストーミングできますし。
形岡先生それができると使い方が広がります。カードを何人か同時に動かしたり、やり取りができやすいよう期待しています。
佐々木教頭いま町で採択を受けているのは、学習系のデータと校務系のデータをリンクさせること。子どもたちの学力向上、我々の授業力の向上、そして多忙化の解消につながるように。
島校長例えば、児童が欠席した情報をPCに入力すると、どの授業を受けていないかが分かるようになったり。あるいは、児童たちの人間関係もそこに加味して、「この子は浮いているんじゃないか。だからみんなが、その子のつくった画面を見に行かないのではないか」。そういった点まで一つの画面で分かるようなシステムをつくり、文科省が入って新地町で実証授業しているところです。文科省はICTを使ってもっと働き方改革を進めたいし、先生方の高度な授業を少ない作業でできないかと取り組んでいる。それが新地町の研究です。
島校長ICTに限らず、「ルーブリック評価」という学習到達度の評価法があるのですが、できるだけ上を目指しましょうと。授業だけでなく学校生活、例えば掃除でも「A」の上の「S」を目指そうと指導しています。
佐々木教頭今日の授業の導入の場面でも、「S」の内容を提示すると子どもが見通しを持てるんですね。そこに向けて頑張ろうという意欲も高まります。
形岡先生教師としては、最後にその結果が分かりますよね。「A」も押せない場合があると、自分の授業が想定とは違ったのかなと、教師自身の評価になる。それが蓄積されていくんです。そうやって教師も振り返る、子どもも振り返る、というスパイラルをやっていきたいなと思っています。
島校長1問のところを10問解くのが「S」ではなくて、根拠を示すとか、友だちと話しながらとか、思考力になっているところが特徴です。成果も見えていて、子どもたちの学習に一生懸命向かう眼差しが素晴らしい。保護者の方にも、ICTの活用そのものより、子どもたちがイキイキと学習しているところを成果として見ていただいていると感じています。
福田小学校では、ICT支援員の方がARを活用した掲示物を製作し、廊下の掲示板に貼り出されています。例えば、英語の歌詞や文章にタブレットをかざすと、動画が立ち上がって発音が聞けたり。ここにもICTに先進的に取り組む福田小学校の姿勢が現れています。