取材日:2020年11月19日
和歌山県紀の川市の粉河小学校は、創立明治5年という歴史のある小学校です。紀の川の北側丘陵地帯に古くから栄えた粉河地区で、地域に根差した小学校として、積極性の育成を重視した教育を実践しています。同校では、教育環境のICT化の取り組みの一環として「らくらくボード」の活用が始まっています。
「らくらくボード」を利用した授業に取り組まれているのは、専科の坂本美有季先生(音楽、家庭、算数)です。また、管理職として校内のICT化を推進されている岡田明彦校長と本田憲仁教頭、さらに紀の川市教育委員会 教育指導課より舩津真理主任指導主事に同席いただき、ICT化の取り組みやウィズコロナの授業についてなど、様々なお話を伺いました。
坂本先生パートに分けて範唱を流したり、楽譜を画面に表示させたり、そこからクリックした箇所を小節単位で再生したりと、デジタル教科書の様々な機能を活用しています。もちろん伴奏もしてくれますし、まさに1台で数役をこなしてくれていますね。デジタル教科書には様々な工夫が凝らされていますが、それを最大限に活かすことができるのが電子黒板ですね。両者が導入されたことで、授業のスタイルが一変しました。
坂本先生範唱はただCDを流して聴かせることしかできていませんでした。また、合唱をする際、自らピアノで伴奏した場合には、もちろん両手が空きませんから、できることは限られていました。演奏に気を取られますので、子どもたちの表情には目を配れません。それが今では、格段に細やかな指導ができるようになっています。私は専科で家庭と算数も担当していますが、電子黒板とデジタル教科書の相性の良さという面では、音楽という教科は際立っていると実感しています。
坂本先生これまでは教室据え置きのディスプレイも活用していましたが、サイズが小さかったせいで、遠くて見えない子どもがいました。「らくらくボード」は65型と大きくて、教室のどこからでも見えますので安心ですね。大きなタブレットを使うように操作できる点も気に入っています。拡大して見せたい箇所がある時は、画面に触れてピンチアウトし、どんどん大きくしていけます。
坂本先生デジタルツールは現代の子どもの得意分野ですね。やはり、目と耳の両方から情報が入ってくるので、わかりやすいようです。これは音楽に限ったことではありませんが、電子黒板でビジュアルを見せながら話をすると、「先生が今、何の話をしているのか」ということが、明確に伝わります。私も子どもたちも同じ画面を見て、同じものについて話す。これがわかりやすさに直結します。私が話した言葉を元に、それぞれが手元の教科書を目で追うのとはまったく違います。校務用パソコンとディスプレイを使う場合は、私のほうが手元での操作になってしまい、やはり目線がそろわないから電子黒板がいいんです。
坂本先生例えば算数は5年生の授業を担当していますが、教科書を部分的に拡大して、問題だけを見せるといったことをしています。教科書には問題の答えが載っていますので、最初からそれを見せてしまうと、児童は考えることをやめてしまうんです。考えさせるための工夫として、「見るべきところだけを切り取り、いらないところは隠す」ということを行っています。「らくらくボード」はこのような操作も手間なく簡単に行えます。教員側が自在に見せたいものをコントロールできるわけです。
坂本先生タッチペンを使って私が画面に直接書き込めば、どこが大事なのか児童には一目瞭然ですし、ノートの取り方も私の書き込みから自然に学べます。書いたものをすぐ消せるのも有難いですね。たくさん書き込んでスペースがなくなっても、保存してすぐに新たな画面を追加でき、保存したデータは振り返りとして次の授業で利用できます。従来の黒板での板書ならこうはいきません。
坂本先生与えられた楽譜の通りに歌うのでしたら、ただの技能指導です。子どもたちに自分で考えさせるためには、意見を聞いたり、思ったように歌わせてあげることも大切です。書いたり、消したり、まとめたり、画面を切り替えたり。こういったことをテンポよく行える「らくらくボード」は、「考える授業」をしっかりサポートしてくれるツールだと思います。
本田教頭やはり、先生が見て操作している画面を、子どもたちが一緒に見て学ぶということに、電子黒板の強みがあると思います。今までも、誰かを指名して黒板に書かせることは行ってきましたが、なかなか手間取りますよね。一人の思考を皆で共有すること、しかもそれをできるだけスムーズに行うことが重要です。
舩津主任指導主事板書時間の削減にもつながっていますね。例えば1回の板書に先生が3分使うとして、5回行ったら15分です。この15分の時間を、考えたり、主体的に活動する時間にあてることが可能になります。できる部分はどんどんICTで効率化していき、よりよい学びのために時間を使ってほしいと思います。
舩津主任指導主事 反応が非常に速く感動しました。一昔前の電子黒板には、反応速度が遅い、止まってしまうなどの課題がありました。これで敬遠されて、使われなくなってしまっては……、という懸念は常に持ってきましたから。課題を克服する電子黒板は、長年待ち望まれたものなんです。
坂本先生現在は、自分たち教員にどんなことができるのか、子どもたちの反応を見て、使いながら試行錯誤している段階です。
岡田校長まずはできるだけわかりやすい授業を。また、書き込んだものの共有などを通して、児童参加型の活用を。さらには、今まで頭の中でしか描けなかったものも共有できるようにと、段階を踏んで活用を広げてほしいと思います。先生方が自分の使い方を共有して、お互いの授業に活かし合える環境が理想ですね。
舩津主任指導主事坂本先生の音楽の授業は、まさにウィズコロナの授業と感じました。以前の音楽の授業では、児童がピアノの前に集まって、先生がピアノを弾き、伴奏の音に負けないように皆で声を張り上げて……、といった姿も見られました。飛沫感染対策を考えますと、これはあまり好ましくはないですね。しかし「らくらくボード」のような使いやすい電子黒板があれば、適切な音量、適度な距離を保って学ぶことは難しくはありません。こういったサポートはICTの得意分野でもありますね。
舩津主任指導主事紀の川市として、公立学校のICT化には大いに注力していきます。これからGIGAスクール構想も本格的に動き出し、校内の環境はさらに整っていくでしょう。ネットワークの強化、全教室に1台ずつの電子黒板、児童1人に1台のタブレットという体制を近い将来実現させたく思っています。
岡田校長電子黒板については、学校が「どう使いこなすか」を考えるフェーズに入ってきています。現場の先生方はこれからが力量の見せ所。大いに期待しています。
舩津主任指導主事電子黒板の機能が進化し、先生方の授業を軽やかにサポートしているのを見ていますと、今後、教育現場のICT環境はどんどん良くなって、さらに便利になっていくのだなという期待が膨らみます。教育委員会としては、先生方にどんな授業をしていただくかを考えるのが責務です。それを子どもたちに、「考える授業」という形でしっかり届けていければと考えています。