取材日:2017年07月26日
石井電気システム様では、電力の使用量を設定した上限に自動制御する【デマンド・コントローラー】の特許を有し、全国に5,000台以上展開されています。その最新鋭機に、当社の【「HD-PLC」マルチホップアダプター(PLC-HM240E)】が採用され、滋賀県の【ホテル可以登(かいと)】に導入されました。本システムの特長は、国の課題である電力のピークシフトと、事業者のニーズである電気料金の節約を、普及しやすいコストで実現したこと。まさに時代が求めるこの装置に、【「HD-PLC」マルチホップアダプター】がどのように役立っているのか。【石井電気システム(有)】の石井裕介様と【ホテル可以登】支配人の田下史祥様にお話を伺いました。
PLC(Power Line Communication)は、LANケーブルの代わりに電力線(屋内電気配線)を使ってデータ通信を行う通信技術です。工場や施設などに張り巡らされている電力線を使用するため、新たな配線を用意したり特別な工事を行う必要もなく、PLCアダプターをコンセントに挿すだけでネットワークを構築することができます。
石井氏まず電気代の仕組みからご説明しましょう。電力会社のメーターは30分ごとの電気の使用量を記録しており、過去1年間の最大値で基本料金が決定されます。例えば夏のある一日のある30分だけ大量に電気を使うと、年間の基本料金がそれで決まってしまうので非常にもったいない。言い換えれば、できるだけ平準化する使い方をすれば電気代をグッと落とせる。そのため、設定した電力量を超えないように自動制御するのがデマンド・コントローラーです。
田下氏当ホテルの創業時のこと。お盆の時期はお客様のチェックインが早く、3時ごろに入室されるため、2時30分ごろに前支配人がエアコンをいっせいにオンにしていました。ふつうの家なら帰宅してからエアコンを入れればいいですが、ホテルはお客様が部屋に入られた時には涼しい環境をつくっておかなければいけませんから。
石井氏創業されてすぐにデマンド・コントローラーをご提案しました。エアコンというのは立ち上がりにフルパワーで動くけれど、一定の温度になれば半分以下の電力消費になります。そこで、エアコンをゆっくり立ち上げ、後は自動でオン・オフするシステムを導入しました。
田下氏 創業当時の総表示電力の最大値に比べ、今回の新システムでは半分以下になりました。概算ですが、約70万円以上安くなっています。
石井氏鉄筋コンクリートの建物は後から配線するのが非常に難しい。PLCは既存の電力線を利用でき、設置コストが抑えられるので、より多くの事業者様に導入していただけます。
田下氏 ホテルでは美観上の問題もありますし、配線が露出しないことも重要です。
石井氏はい。そうなると無線LANかPLCなのですが、無線では建物の中の遠いところには届かないので、こちらのホテルではすべてPLCで通信してきました。ただし課題はあって、今回の新システム導入に至ったのです。
石井氏私どもでは、エアコンを1台ごとに制御する特許を持っています。ある部屋を3分止めたら、また違う部屋を3分止めるというように、お客様に気づかれずに細かいコントロールができます。そのためには、信号を送るチャンネルが複数必要なのですが、今まで使っていた海外製のPLCは信号をひとつずつしかやり取りできず、館全体のオン・オフ制御しかできなかったのです。
田下氏 ピークが来たら全室のエアコンを止めて、また戻してという荒い制御でした。夏は上の階は暑いが、下の階はそうでもない。下の階は頻繁に止めていいのに、上の階が止められないから全室止められない。なので、デマンド・コントローラーがあっても設定電力量をあまり下げられなかったのです。電気代が抑えられてもお客様に不快感を与えたら意味がありませんから。
石井氏アイ・オー・データ機器の「HD-PLC規格のマルチホップアダプター」はLAN通信を使用するため複数の信号のやりとりができ、細かな制御が可能になります。また、PLCは電力線を使うため、掃除機やパソコンなど他の電気機器の影響を受けやすく、距離が伸びれば通信が途絶えるという課題もあったのですが、PLCを数珠つなぎできる「マルチホップ」は建物が大きくても通信が安定しています。配線工事なしで弊社のデマンド・コントローラーの機能がフルに発揮できる、まさに待望の商品。プレス発表を見るなりすぐに手配しました。
田下氏 石井さんが最新のPLCで新システムを開発したと聞き、この春、すぐ導入を依頼しました。
石井氏仮に配線工事をすれば100万円を超えるところを、今回のPLCでは数万円で済んでいます。
田下氏当ホテルでは、平常時は4割運転でじんわりと動かし続けるようプログラムしてもらいました。エアコンを止めないからクレームはないですし、設定した総電力量の上限を超えることもありません。お客様のいない部屋は消し、デマンド・コントローラーのモニターを見て数値が下がり始めたら、エアコンの弱中強を中にしたり強にしたり、タッチパネルで細かに設定できています。以前は信号を止めて、コンプレッサーを止めて、機器にも負担がかかっていました。今回は機械にもやさしいし、今のところ大成功です。
石井氏電力線を使うので、お客様がいっせいにパソコン使われたりしたら、ノイズ通信できなくなるケースがありましたが、今回のマルチポップではターミナル同士が通信できるため、通信が安定することも期待しています。また、今までは停電等で給電が止まったら設定がリセットされていましたが、アイ・オーさんのPLCは設定を覚えているので通信を再開してくれます。これはありがたいですね。
石井氏毎年2回ほど、同業者の方々にデマンド・コントローラーを紹介する勉強会を催しています。今回の新システムでまた反響が出ると思います。
田下氏アイ・オー・データといえばハードディスクでお世話になっていて。通信機器に使われている認識はなかったけれど、知っているブランドで精密機器での信頼性も高いので、なおさらいいですよね。
石井氏現在、東は山梨から西は四国くらいまで、それより遠方は同業者さんに依頼して行っています。最近は大手電力会社さんとのお付き合いも始まっています。電力会社のテーマは安定供給。ムダな発電所をつくらないよう、電力を平準化して使うように社会全体が進んでいく。そんな時代に、配線なしでつなげるPLCががもっと広まっていくと確信しています。