ネットワークカメラ「Qwatch」 導入事例【曽田園芸】
ネットワークカメラ「Qwatch」を使って『温室遠隔監視システム(タイマー水やり機能付き)』を手作りしました。
取材日:2015年7月
島根県 出雲市 曽田園芸の曽田寿博氏と、地元の農業仲間、西尾和廣氏に、アイ・オー・データのネットワークカメラQwatch(クウォッチ)を使って温室管理&水やりシステムを構築した経緯について詳しく聞きしました。
(曽田園芸について)
曽田園芸は、島根県 出雲平野でシクラメン、クリスマスローズ、あじさいなどを育てている園芸農家です。出雲平野はもともと鉢花園芸が盛んな地域ですが、実は主な消費地である関西や福岡からは遠く、流通上は不利な立地にあります。それでも斐川地区の園芸農家は、そのハンデを跳ね返して西日本のシクラメン生産でトップに立ったことも。曽田園芸は寿博様で四代目。ビニールハウス14棟を家族3人とパート4名で切り盛りしながら、年間3万鉢を出荷しています。
Qwatchを使って「温室状況把握システム」と「水やりシステム」を自作
「温室、気になるな…、
よし、出雲2号に聞いてみよう!」
― 曽田園芸ではQwatchをどのように活用していますか?
曽田園芸では、Qwatchを使って「温室の状況を遠隔把握するシステム」、通称「出雲1号」を手作りしました。その後、改良を重ねて「温室のスプリンクラーのタイマー稼働」という機能を追加した「出雲2号」に発展させました。
スマホで呼び出し
「温度14.4度。湿度81.2%、
苗もいいかんじ。オッケー!」
― 「温室の状況を遠隔把握するシステム」とは具体的にどのようなものですか?
良い鉢花を作るには、温室の状況、つまり温度、湿度、水やりの状態その他総合的な状況を把握して、素早く手を打つことが重要です。
そこで温室に温湿度計を置いて、それをQwatchで24時間撮影し、その映像をスマートフォンで見るようにしています。
「温室、どうなってるかな~」と気になったときには、出先でも夕食中でもすぐにスマホで確認するわけです。
「出雲2号」のシステム概要は次のとおりです。
項目 | 内容 | 備考 | ||
システム費用 | 1箇所あたり約2万円 |
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設置箇所 | 2箇所 | 出雲の主温室に1つ 60キロ離れた広島分場に1つ |
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スマホでの表示 | Qwatch付属の 専用アプリを利用 |
専用アプリ「QwatchView」は無料。 | ||
電気が使えない温室での電源 | 太陽光発電 | 温室内にソーラーパネルを設置。それを自動車バッテリーで通して蓄電、整流した上でカメラに給電 | ||
システム構築 | 全て自力で構築 | 私は農家なので木工や機械いじりは心得がありますが、パソコンについては、一応使うもののそれほど好きではありません(機械と違って、内部動作が分からないところが親しみにくいため)。 しかしこのシステムは「温湿度計をカメラで映してそれをスマホで見る」というように、しくみが明確なので、自分で納得して迷わず作れました。 |
(TS-WLCAM)
なお「出雲2号(TS-WPTCAM)」の前身である「出雲1号(TS-WLCAM)」ですが、こちらの費用はQwatchと温湿度計とで合わせて1万円弱でした。設置箇所は出雲の主温室2箇所(暖房の時期は4箇所)、スマホ表示や電源確保については出雲2号と同じです。
まるでピタゴラスイッチのような、「水やりシステム」
「温室に水まきしたいなあ。
でも今、出先だしなあ…。
よし、出雲2号に頼もう!」
(スマホ操作で首振り開始)
(首振りで糸を巻き取る)
(糸がタイマーのレバーを回す)
(プシャーッと水まき開始)
― 「出雲2号」で機能追加された「温室のスプリンクラーのタイマー稼働」とは具体的にはどのようなものですか?
Qwatchにより温室のスプリンクラーを動かすことで、タイマー稼働の水やりシステムを作りました。
水やりシステムのしくみは以下の通りです。
- Qwatchには「カメラとしての首振り機能」がついている。これは遠隔操作も可能。
- いますぐ温室に水をやりたいと思ったときは、スマホを使ってQwatchの首を回す。
- 回転する首が糸を巻き取って、その糸がカウントダウンタイマーにくっつけた木の棒(レバー)を回す。
- するとタイマーがオンになり、一定時間、水が撒かれる(リミット時間が来ると、水は止まる)
- Qwatchには「首振り距離をプリセット(事前設定)する機能」があり、4通りのプリセットが可能。現在は、水やり時間が「20分」「30分」「40分」になるように、首振り距離を調整し、プリセットしている。
― このからくりは、まるで「ピタゴラスイッチ(※1)」を見ているようです。
はい、ピタゴラスイッチは意識してました。作ってて楽しかったですね(笑)
この手作りシステムについて「4Hクラブ 島根県農林改良青年会議(※2)」の県大会で発表したところ、なんと最優秀賞でした!
今年秋には「4Hクラブ中国四国ブロック大会」で発表します。夢は全国大会、そして農林水産大臣賞ですね(笑)。
※1. 楽しいからくり仕掛けが毎回紹介されるテレビ番組
※2. 『4Hクラブ』とは、全国の若い農業者が所属する組織のこと。4Hとは、腕前(Hands)、頭脳(Head)、精神(Heart)、健康(Health)の頭文字の集まりのこと。
※ 本利用方法はあくまでユーザー様での責任となり、メーカーが推奨している方法ではありません。
(※ 曽田園芸のfacebookより転載)
ある日「そうか、カメラで映せばいいんだ」と気づく
(クリスマスローズの栽培)
― このシステムを作ろうと思った経緯をお聞かせください。
きっかけは「クリスマスローズの品質向上」です。
クリスマスローズという花は暑さに弱いので、夏場は蒸し暑い出雲平野ではなく、涼しい高冷地で栽培した方がキレイに育ってくれます。
そこで、まずは100キロ離れた岡山県の山間部で試験栽培を始めてみました。しかし100キロ離れていると、状況把握や管理が難しい。そうそう頻繁にも見に行けませんし。
そういう問題は、立派な「温室総合遠隔管理システム!」を導入すれば解決するとも聞きましたが、いかんせん費用が高いし、なんだか大げさすぎる。
どうしたものかと考えあぐねていたある日、「あ、そうか温湿度計をカメラで映せばいいだけじゃん」と気がつき、そして作ったのが「出雲1号」「出雲2号」です。
今年から夏越しの場所を、今までより40キロ近い広島県の山間部に変更しました。出雲2号をフル活用して遠隔監視も万全。クリスマスローズ9000鉢の夏越し栽培を本格的に開始です!
出雲1号、出雲2号のいいところ
― 出雲1号、出雲2号の曽田様にとっての良さを教えてください!
挙げるとしたら次のような点でしょうか。
- 「 簡単、安い、スマホでOK(パソコン不要) 」
- 「 ローテクではあるが、必要な情報は全部分かる 」
- 「 目で見てわかる 」
- 「 結果だけでなく、原因が推測できる 」
- 「 スマホを使うので、『いつでもどこでも』 見られる 」
システム費用は1万円弱
― 良さ1.「簡単、安い、スマホでOK」とは。
出雲1号は、「温湿度計をカメラで写す」というただそれだけのシステムです。難しいことは何もありません。
費用は出雲1号の方がQwatchと温度計とで1万円弱。安かったです。
(※ 出雲2号は首振り機能付きカメラを使っているので2万円弱)
設定はスマホでできて、パソコンが不要なのも便利でした(※)。
※ Qwatch付属の無料アプリ「QwatchView」を使用
知りたいことは何でも分かる
(※ 曽田園芸のfacebookより転載)
― 良さ2.「ローテクではあるが、必要な情報が全部分かる」とは。
こちら出雲1号がスマホに送ってくる映像の例です。この一枚の映像を見るだけで「僕にとっての温室管理に必要な情報」はほぼ全部分かります。
まず「温度」「湿度」という基本情報。そして「水やりの成否」。
水やりの成否は「鹿沼土の色」を見れば分かります。鹿沼土は、乾いているときは色が白く、湿ると黒くなるので。
「風の強さ」も、温室のビニール壁がバタバタしているかどうかで、おおよそ判断できます。
その他、「温室内の日照の具合(=遮光が的確かどうか)」「風通しのための側壁の開閉状況」も映像を見れば視覚的に把握できます。
映像に写してしまうというのは、馬鹿馬鹿しいようでいて実は確実だし、将来の拡張もラクです。何でもかんでも写せばいいだけですから。
農業は「目で見て分かること」が大事
― 良さ3.「目で見て分かる」とは。
(西尾様):出雲1号をはじめて見たとき、これはスゴイ!と思いました。目で見て分かるのが最高でした!
(曽田様):農家の僕たちにはそれが大事です。
出雲1号は、システムに詳しい人の目からは不格好に見えるようです。「これカメラ要るの? 温湿度のデータをセンサーから直接ネットに送信すればいいじゃない」と言われたこともあります。だけどデータだと、スマホの上に「35度」とかの数字がポツッと写るだけでしょ。それだとちょっと…
(西尾様):うん、それじゃダメ。やっぱり作物の「顔」が見えないと。
(曽田様):僕も、シクラメンやクリスマスローズは一鉢一鉢、様子を見ながら育てています。農業の基本は「自分の目で見ること」だと思うんです。
台風11号が来たときの映像
「温度23.1度、湿度85%。温室ビニール壁には大量の雨がかかっているが、とりあえず無事」 など映像だけで色々なことが分かる。
それに目で見える方が安心感が高いです。先日、台風11号が中国山地を縦断しましたが、そのときは広島の温室のことがとても心配でした。でも出雲2号で温室の様子を目視確認できたので、ひとまず安心できました。
温湿度計をカメラで撮影するというのは、ITの専門家の目からはダサく見えるのかもしれません。でも私がやりたいことは「良い鉢花をつくること」であって、「システムが格好良いか良くないか」は正直どうでもいい。
やっぱり目で見える方がいいです。
ただ数字だけ分かっても意味がない
― 良さ4.「結果だけでなく原因を推測できる」とは。
(曽田様):センサーを使った「数字だけ分かるシステム」の場合、たとえば「温室が異常高温になっている」という「事実(数字)」は分かりますが、しかし異常高温の「原因」を推測するための情報は提供されません。
一方、カメラによる映像ならば、それを見れば、「温室内の様子」、「天候」、「サイドの開閉状況」、「遮光の開閉状況」、「水やり状況」など、全体の状況がぼんやりとわかります。そこから「なんだ、高温の原因は、パートさんが遮光するのを忘れてただけか」など原因が分かり、それに基づいて細かい指示が出せます。
センサー型システムの場合、温度データを蓄積し、その推移を分析できることは大きな利点です。しかし、私にとってはその利点よりも「現場が目で見えること」の方が重要です。農業の現場ではデータより映像の方が「使える」と思います。
パソコンで見るのだと「使えない」
― 良さ5.「 スマホを使うので、『いつでもどこでも』 見られる 」とは。
野外作業が基本の農家にはパソコンよりスマートフォンの方が便利です。スマートフォンなら農作業中でも使えますから。
温室のことは気になったときにすぐ調べたい。ということは、映像を見る端末は「机の上のパソコン」では絶対にダメで、いつも持ち歩いているスマートフォン以外ありえません。
Qwatchを選んだ最大の理由がこの「映像がスマートフォンで見られるから」ということでした。
温室で使って、もし壊れたらどうするのか?
― 現在、Qwatchを温室という高温多湿の環境で使っているわけですが、「耐久性」の点で懸念はありませんでしたか。
確かに温室は、精密機械にとっては良い環境ではありませんが、そこはメイドインジャパンだから、まあ、大丈夫なんじゃないかなと。それにQwatchの値段なら、「もし壊れたら買い換えればいい」わけです。耐久性のことは深く考えないことにしました。
ただスプリンクラーの水がかかるのはさすがにマズいので、最近はQwatchを水槽に入れたりしています。まあ、その程度のアナログの対策で問題ないだろうと。
先輩ユーザーからのアドバイス
― 現在、システム化を検討中の農家向けに「先輩ユーザーとしてのアドバイス」などあればお聞かせください。
農家の目的は、いい農作物を作ることであって、システムは手段にすぎません。システムを導入するときには「世の中では普通こうしている」とか「これが最新のシステムだ」とか「ちゃんとしたシステムを入れないとみっともない」とか、そういう話に惑わされることなく、「自分にとって本当に必要なこと」は何かを見極めて、それだけをやれば良いと思います。
アイ・オー・データさん、今回、Qwatchのおかげで出雲1号、2号が完成しました。すごく役立ってます。これからも工夫を重ねて、もっと良いシステムを作っていくつもりです。引き続きよろしくお願いします。
導入企業概要
[企業名] | 曽田園芸 |
[所在地] | 島根県 出雲市 斐川町 |
[会社概要] | シクラメン、クリスマスローズ、あじさい等の栽培 |
[facebook] | 曽田園芸の遠隔管理・監視システムのページ |