取材日:2020年11月4日
「北海道星置養護学校 ほしみ高等学園」では、まさにコロナ禍一色となった2019年度の卒業シーズンに、「密」を避けた卒業式の実現に取り組まれました。同校は北海道の特別支援学校の中でも、知的障がいを有する生徒さんを対象とした普通科のみを設置する学校です。安全性を優先することを第一に、さらに保護者の皆さんまで含めて、全員の思い出に残る式典にしたいという願いを込めて、卒業式の校内動画配信に挑戦しました。様々なハードルのあった中で、なんとか実現にこぎつけ、現在はさらに次年度のための取り組みを開始しています。
中心となってプロジェクトを進めた小林義安先生は、マイクロソフト教育イノベーター、Intel Teach Programマスターティーチャーといった認定を取得されるなど、教育とICTに関して深い知見をお持ちです。同校でICT化の取り組みの中心となって活躍されています。
小林先生最終学歴がこの学校となる当校の生徒たちにとっては、これが人生最後の卒業式です。「密」を避けるための安全確保に努めつつ、できる限りのことはしてあげたいと思っていました。そこで、式場に入るのは卒業生のみ、保護者の皆さんには会議室などで待機してもらうスタイルでの開催へとこぎつけました。とはいえ、せっかくの生徒たちの晴れ姿、ぜひ家族の皆さんに見届けて欲しいという気持ちもありましたから、校内配信の仕組み作りに取り掛かったのです。
小林先生今回の配信は保護者の方にも非常に好評でしたから、ぜひ定着させたいという想いがありました。私以外の先生にも同じように配信に挑戦してほしい。そう考えると、苦手な先生でもすぐにボタン操作だけで使えるような、わかりやすいシステムが必要でした。そのタイミングでGV-LSBOXに出会い、これはまさに求めていたものだと採用したんです。
小林先生今カメラやiPadなどの端末で撮影したデータをHDMIで出力し、GV-LSBOXに送ります。パソコン上で私がリアルタイムに編集し、そこから保護者が待機する各教室に配信する構成です。録画データは本体に保存できますので、記録用データも同時に取得しています。
小林先生GIGAスクール構想では校内Wi-Fiの拡充も予定されていますし、将来的にはiPhoneやiPadで撮影し、Apple TVのミラーリング機能を活用することも考えています。撮影は全体を俯瞰する固定カメラ2~3台と、自在にアングルをとれるiPad1台などという、GV-LSBOXの4チャンネルを活かした機動力ある構成ですね。各教室にはAndroid TVが導入されていますから、いずれは操作用のパソコンすら不要になるかもしれません。アイデアは尽きず、非常に楽しみにしています。
小林先生実は来年度以降の計画として、画面にテロップを入れることなども考えています。GV-LSBOXの後継機種となるGV-LSMIXER/Iもすでに入手していまして、こちらはiPadを操作画面にして、より簡単に画面合成などの編集が行えます。機能が高度な上に、ボタン操作や画面タッチで簡単に使える仕様になっていますから、教育現場のニーズにもぴったりです。GV-LSMIXER/IからGV-LSBOXへHDMI出力を行い、HLSで配信するという連携が必要になりますが、さながら簡易スタジオといった高機能に期待しています。
小林先生校内設備のデジタルネットワーク化が進む中で、既存の校内放送設備との連携性が悪くなっているのが悩みでした。従来の放送室の設備はアナログですから、LANとの連携に難があるんですよね。既存設備をIPネットワークと連携させるソリューションなども存在してはいるのですが、高額のコストがかるため現実的ではありません。一連の取り組みは、既存設備を使わずに、なんとかIPベースの配信の仕組みを作れないかと模索した結果の選択です。
小林先生HLS形式にこだわったのは、インターネットを経由しなくても配信できる点です。北海道の教育機関のセキュリティポリシー上、当校は生徒のプライバシーには非常に細やかに気を配っておりますので、インターネット上の配信サイトなどにデータをアップロードすることは避けたいのです。たとえ限定公開の配信だとしても、セキュリティを考えたら問題です。また、北海道の教育機関が共通で利用しているインターネット回線「ほっかいどうスクールネット」に負荷をかけないための配慮でもあります。
小林先生データを外部に出さない安全な仕組みを作ることは第一です。また、誰でも操作できる簡単さを備えたGV-LSBOX、GV-LSMIXER/Iは、IT習熟度の異なる様々な先生方の働く教育現場にもマッチしています。さらに、低コストで実現できることもポイントですね。
小林先生 当校は1クラス最大8人という小人数で授業を行っていますが、従来は皆で集まって、クラスをまたがった合同授業などを行ってきました。しかし、このような一か所に大勢が集まるスタイルの授業は、しばらく中止せざるを得ないでしょう。今までにない様々な制約が出てきてしまった中で、ICTの役割は重みを増しています。動画配信に関しては、各教室に担当教員の授業を配信するのにも役立つでしょう。通信環境への負荷やセキュリティ上の懸念が払しょくされるという前提条件はありますが、可能ならばWeb会議ツールとの連携などにも取り組んでみたいですね。また、遠隔授業の取り組みなども順次試験的に取り入れています。こちらは学校閉鎖時のコミュニケーション、訪問教育※でも活躍しそうです。
小林先生 こちらも試験段階ですが、職員会議のオンライン化も検討しています。アフターコロナ、ウィズコロナの働き方も、今こそ考えなければなりません。一部屋に全員が集まって開催するといった職員会議のあり方も、必要に応じて変えていくべきでしょうね。現在、教育委員会の意見も伺いつつ、より良い方策を考えている最中です。
小林先生当校のような特別支援学校では、生徒一人ひとりが教員による手厚いサポートを必要としており、私たち教員はそれに応えるために日々、最大限に努力しています。そのためか、生徒と教員との間の絆は特に強いと感じます。私以外の先生方も、皆、同じ想いを持っていると思います。「とにかくできる限りのことをしてあげたい」と。コロナ禍という今までにない事態の中にいるわけですが、学校行事や授業の縮小というのは本当に残念なこと。今回、動画配信の仕組みがしっかり整ったことで、これらの影響を軽減できたのではないかと思っています。大変な時期ではありますが、これからはGV-LSMIXER/I、GV-LSBOXが現場の助けになってくれることと期待しています。