取材日:2021年7月2日
市内小中学校への電子黒板導入が進む奈良県橿原市で、いち早く「らくらくボード」を活用してきたのが橿原中学校です。同校で中心となってICT活用を進める加賀城優希先生(2年4組担任、数学)は、「らくらくボード」を活用し、「楽しんで学ぶ」数学の授業を行われています。教室では生徒の皆さんが一丸となり、積極的に声を出し合って授業に参加されていました。
そんな加賀城先生と同校の萩原賢教頭に、「らくらくボード」の活用状況について伺いました。さらに、橿原市教育委員会で学校ICT環境整備を担当する鶴田剛史指導主事にも、電子黒板の導入計画やコロナ禍におけるヴィジョンなど、学校におけるICTについてお話を伺いました。
加賀城先生教科書の文章を正しく覚えることが苦手という生徒は少なくありませんが、この授業の狙いは、まさにそんな生徒たちに具体例を1つでも覚えてもらうことです。スピード感を持たせながら畳み掛けることを重視しています。今回は、「関数とは、1つの答えが導き出される問いである」ということを学ぶために、クイズ形式にしています。遊び感覚で気軽に参加しているうちに、楽しい「思い出」の1つとして頭に入れてくれればと考えています。
加賀城先生黒板だけだと真面目な授業になりがちですが、電子黒板があれば視覚的に非常に面白くなりますよね。もちろん板書も大切ですが、一方で黒板に書き写す手間や時間を節約する必要も感じていまして、PowerPointなどを使った教材の自作にも取り組んでいます。内容は、プリントや教科書の問題をベースにしたものです。
加賀城先生Chromebook連携を行った際にも感じます。生徒1人に1台ずつ導入されたChromebookは、電子黒板との連携があってこそですね。生徒にとっては、先生が自分と同じ画面を表示しているということが重要です。
加賀城先生 各教室に32インチのテレビが導入されていましたが、画面が小さく見えにくいため、表示させたいものがある時には、プロジェクターを使っていました。しかし、プロジェクターは教室据え置きではなかったので、準備や片付けに時間がかかっていましたね。自分で運び込んで、設置して、スクリーンを黒板に貼って、授業が終わって片付けて……、これでトータル10分。とにかく時間がなくて、教室移動は走らなければならなくなるほどです。しかもスクリーンは結構場所をとり、黒板のスペースを半分近く占めてしまいます。
加賀城先生今は授業では必ず電子黒板を使っています。プロジェクターに感じていた不満はすべて解消されました。「らくらくボード」は非常に使いやすくて、特に画面に書き込みできるアノテーションモードをよく活用しています。例えば教科書の注目してほしい箇所を示すのに、「何ページの何行目」ではなかなか伝わりませんが、電子黒板にデジタル教科書を表示すれば、「ここ」と言うだけでいい。タッチペンで画面に書き込めば、わかりやすさがさらに増します。
加賀城先生電子黒板があることにより、黒板に書いたり、消したり、プロジェクターを設置したりといった、作業から解放されていることは確かです。こういった作業に時間を割くと、生徒の注意力が削がれてしまうんです。黒板を消している最中などに、おしゃべりが始まってしまう。今までは、集中力を途切れさせないために、プリントを配るタイミングなどに工夫が必要でしたね。今はそんな心配もなくなりました。純粋に、学びのためだけに時間が使えています。
加賀城先生授業の冒頭の3分間を使って練習問題を解いていますが、タイマー機能は必須です。担任するクラスでは、学活の際にホワイトボード機能を使っています。連絡事項などを書き込んで、表示しておきたいもの、保存して記録しておきたいものなど、内容に応じた使い分けができますね。
加賀城先生道徳の時間に、生徒の手元のChromebookと連携(ソフトウェアは「ロイロノート・スクール」を使用)させて意見を集めることもしています。挙手をして意見を言うのが苦手という生徒も、匿名制にすると書きやすくなるようで、これならパッと書いてくれます。「らくらくボード」が発言へのハードルを下げていると考えられます。また、集めた意見を「らくらくボード」の大画面で共有することで、さらに活発な議論につなげています。
萩原教頭使ってみればよいものだということは容易に想像できるけれど、それでもICT機器が苦手という先生方は存在します。そこで知識のある若手が中心になって、全体を引っ張っていこうと注力しているところです。積極的に使い方や便利な機能を広めつつ、情報共有などを行っています。
萩原教頭今はちょうど過渡期で、先生方も互いに情報共有をしながら、なんとか新しいICTツールを軌道に乗せようと努力しています。加賀城先生のような研究熱心で、知識も十分にある先生方に道を拓いてもらえれば、全体の活用促進につながると期待しています。
鶴田指導主事電子黒板を使って、特別に高度なことをしてほしいわけではありません。教育委員会としても、まずは使える機能から、難しく考えずに始めてくださいと話しています。積極的な先生方の存在は有難いですね。
萩原教頭GIGAスクール構想により、生徒1人に1台のタブレットが導入されています。これからは、自宅に持ち帰ったChromebookなどを通して、生徒と学校がつながることも可能になりますね。感染症対策のみならず、様々な理由があって登校できていない生徒たちのために、こうした取り組みは重要なものになるはずです。
鶴田指導主事そのためには、普段からタブレットを持ち帰り、自宅で勉強する習慣を身に付ける必要が出てきますね。また、電子黒板とChromebookを使った全校朝礼のオンライン配信にも取り組んでいます。職員室等からインターネット経由で各教室の「らくらくボード」に配信を行い、「らくらくボード」と生徒たちのChromebookは、校内Wi-Fi経由で連携します。回線に負荷をかけずに、全員の端末へと朝礼を配信する仕組みが整いました。橿原市内には、卒業式などの式典をオンライン配信している小学校もあり、ICTが様々な可能性を広げていることが窺えます。
鶴田指導主事電子黒板については、橿原中学校を含む3校を検証校として、いち早く導入を行いました。これを追うようにして、昨年度は小学校5、6年生、中学校の全普通学級に導入が完了し、配備が順調に進んでいます。先行の3校はいずれも研修などを積極的に開催してくれて、活用が1歩先に進んでいる状況です。従来の32インチTVしかなかった教室では、デジタル資料を表示することすら困難な状況でしたが、今では様変わりしています。加賀城先生の授業は、電子黒板を中心にした、楽しみながらの学習を体現していましたね。教育委員会としては、導入研修などの支援を通じて、これからもさらなる活用推進を続ける方針です。
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