取材日:2020年12月4日
神奈川県三浦半島に位置する初声地区、のどかな田園風景に囲まれた三浦市立初声小学校で、「らくらくボード」を活用した授業が始まっています。同校で4年生から6年生までの理科の授業を担当する辻功先生が、電子黒板で子どもたちの興味や好奇心をどのように引き出しているのか、詳しくお話を伺いました。さらに同校の八巻貞司校長、三浦市教育委員会学校教育課の荒井俊彦指導主事にも同席いただき、電子黒板とこれからの学びについてのビジョンなど幅広くお伺いしました。
なお、辻先生は日本トンボ学会に所属し、長年に渡る研究者としての実績もお持ちです。三浦半島を拠点にトンボの生態を追い続け、貴重な写真を数多く発表されるなど、精力的に活動されています。
辻先生子どもたちの興味を喚起するために、導入部分で写真を見せるということはよく行います。今回の授業は月の動きを学ぶというテーマでしたが、私がデジタルカメラで撮影した画像を使いました。理科というのは現物を対象にすることの多い教科で、しっかり観察することが大切です。そのため電子黒板の画面に大きな画像を表示し、様々なものを子どもたちに見せていますが、手ごたえは十分感じています。
辻先生児童の書いた観察カードなども、実験台の上に設置したデジタルカメラで撮影し、「らくらくボード」の画面で紹介しています※。大画面には、やはり引きつける力がありますね。子どもを指導する上で、大きさというのは大切なポイントで、小さなものを見せるより格段に集中力が上がると感じています。
八巻校長小さいものを大きく見せることのできる電子黒板は、コロナ対策としても有効です。理科では皆で集まって観察することがよくありますが、飛沫感染などの観点で、これは好ましくありません。現物を皆で回して順番に触れてみたり、といったことも自粛しなければなりませんが、その代わりになるツールとして役に立ってくれています。
辻先生児童の書いたプリントを共有したい時、従来はそのまま黒板に貼っていましたが、サイズが小さくて見えにくかったですね。電子黒板は拡大、縮小、切り抜きなど、編集できる点が素晴らしいですね。児童からの反応も確実に深みを増していて、関心の高まりが窺えます。また、なぜか授業だけで学びを終わらせず、自宅に帰ってからも学び続ける習慣ができているようで、日常から得た「気付き」を報告してくれる子どももいます。
八巻校長電子黒板のようなデジタルツールで当たり前に学ぶ体験が、自分のスマートフォンや自宅にあるデジタル端末とリンクしたのかもしれませんね。それらが学びに使えるとう「気付き」があったのでしょうか。いずれにせよよい効果です。
辻先生アノテーションモードはよく使います。タッチペンを使って私が画面に書き込めば、どこが大事なのか児童には一目瞭然ですし、ノートの取り方も私の書き込みから自然に学べます。デジタルデータですから、たくさん書き込んでスペースがなくなっても、保存してすぐに新たな画面を追加できるのが便利ですね。さらに、保存したデータは振り返りとして次の授業で利用できます。板書ではこうはいきません。
辻先生電子黒板を導入して、初めて課題のプリントを画面に拡大表示した時には、児童から歓声が上がりました。自分の書いたプリントをクラスの皆に見てもらうのは、やりがいにつながるんでしょうね。その時はアノテーションモードで花丸を付けてあげたのですが、もう大喜びで万歳していました。私まで嬉しくなりますね。
辻先生板書したものを消してしまうと何も残りません。しかし、電子黒板ならば消す前に保存できます。後から子どもたちに振り返りとして見せてあげられますし、私にとっては備忘録になっています。今までは授業が終わってから慌てて所見をノートに書き留めたりしていましたが、そんな必要もなくなり、評価を付ける際にも役立っています。
辻先生写真の訴求力も強いですが、動画にはさらに子どもたちを惹きつける力があると感じます。「らくらくボード」なら、ストップモーションにして動画上に書き込みすることもできます。実験などの手順を説明する時には、集まって私の手元を見てもらうより、電子黒板の大画面で見てもらったほうが理解が早いですね。また、自作の動画も使っています。新しい実験道具を授業で使う時などは、あらかじめ録画した使い方を「らくらくボード」の大きな画面でループ再生しておきます。
辻先生従来は、わからないという児童がいたら私が何度も説明していました。しかし今では、わからなければまず動画をよく見るという流れができています。ほとんどの疑問はこれで解決するようで、基礎的な部分で私が説明を繰り返す必要はほぼなくなりました。自分の分身がアシスタントとして動画で説明してくれている感覚です。しかも児童たちは、「先生、まるでYouTuberみたい」と喜んでくれるんですよ。
八巻校長教材DVDなども揃ってはいるのですが、それを視聴するだけでは、学びが「自分事」として響かないのではと感じています。しかし、辻先生がお話している動画、自分たちが書いたプリントとなると、それが急に他人事ではなくなります。当校の教育方針の1つに「学びを自分事として捉える」という項目もあるのですが、電子黒板はまさにそれを実現するためにサポートしてくれるツールだと感じます。
辻先生理科で学ぶ題材には、地域教材がたくさん使えます。教科書に書いてある全国共通の内容もさることながら、自分たちが住んでいる場所のことが教材になれば、子どもたちに与える印象はより強くなります。本校は三浦半島の豊かな自然に囲まれており、特徴的な地層、春夏秋冬の動植物など、観察してほしいものだらけです。ですから、可能な限り出かけて行って、子どもたちの見つけたものをそれぞれ写真に撮ってもらっています。教室に戻ったら、今度は電子黒板の大きな画面でそれを共有するんです。これは学びを「自分事」とすることにつながっていますし、やはり学習効果につながっていると感じています。
辻先生来年度以降はWi-Fiの整備も予定されていますので、できることがさらに増えそうです。電子黒板とインターネットがつながることで、子どもたちに見せられるものがさらに増えていきますから、非常に楽しみにしています。「らくらくボード」のおかげで夢もどんどん膨らみました。私自身の授業に対する意欲も向上しています。
八巻校長本校の子どもたちは伸び伸びとしたよい子ばかりですが、少し恥ずかしがり屋で控えめな面がありますね。ぜひ積極的に、自分から取り組めるようになってほしいと先生方も注力していますが、そのためには授業のねらいを明確にして、子どもたちの心が動くような課題を設定することが必要です。辻先生の授業はまさにこの点を体現した授業になっており、また「らくらくボード」はそれを非常に効果的にサポートしてくれています。
荒井指導主事子どもたちが真剣に話し合い、時間ギリギリまで手を上げて、先生も一緒になって授業を作り上げていく──、そんな授業作りに「らくらくボード」も貢献してくれていました。電子黒板については来年度以降、初声小学校をはじめ市内各小学校へ順次配備を進めていく予定です。さらに活用を広げていってもらうこと、大いに期待しています。