取材日:2020年12月3日
三浦半島の豊かな自然に囲まれた環境で、様々な教育目標の実現に取り組まれている三浦市立初声中学校。「一小一中」の長期視点による丁寧な指導を強みに、ICTを活用した教育も推進されています。
そんな同校で「らくらくボード」を活用して理科の授業を行われている薮崎正信先生に、電子黒板の活用について詳しく伺いました。また、町田直軌校長、三浦市教育委員会・学校教育課の荒井俊彦指導主事にもご同席いただき、学校におけるICTの取り組みについてお話していただきました。
薮崎先生今日の授業では、気象について学ぶために、班ごとのグループワークを行いました。配布したプリントを元に課題を解き、成果が記入できたらiPadで撮影して共有します。それを「らくらくボード」の画面で大きく表示して発表しあったり、私が説明を加えたりします。
薮崎先生電子黒板には、今までのアナログな授業にではできなかった、ビジュアルの伝わりやすさを感じています。例えば気象や電気など、理科では目に見えない題材をよく扱いますが、「らくらくボード」があれば画面への書き込みなどで補いながら、しっかり説明することができます。グラフなども電子黒板があれば説明しやすいですね。
薮崎先生デジタル教科書から動画を見せたりしています。理科ねっとわーくの素材などもよく利用していますね。いずれも授業の導入にぴったりの教材が多数用意されていますから重宝しています。また「らくらくボード」では、ストップモーションで動画を止めて、その上に書き込みすることもできます。大事なポイントに注目させるという意味では、やはり直接書き込みできる電子黒板はいいですね。
薮崎先生動画や写真、スライドを見せたい時は、プロジェクターを使って黒板に写していました。書き込みをしたい場合には照度を上げて、チョークを使ってなんとか……、といった具合です。しかし、やはりよく見えないという課題はありました。また、プロジェクターでは画面上での操作はできませんので、校務用パソコンから操作していましたが、私がパソコンのキーボードに目線をやってしまうと、生徒の集中力も途切れてしまっていましたね。「らくらくボード」が導入されてからは、先生も生徒も同じ画面を見て話すことができるので、集中力も途切れません。
薮崎先生難しいという声は聞こえてきません。導入した当初は、手元のiPadの画像が電子黒板に送られていくだけで皆感動していました。今では自然に使いこなしており、仮説を説明する時もスムーズです。定規を当てることなく手でスッと直線が引けますし、応答速度でストレスを感じるようなこともありません。また、大人数で一斉に書き込んでも、それぞれ正しく反応するのには驚きますね。
薮崎先生皆の前で発表できるという点はたしかに意欲につながるようで、手はよく上がります。一方で、発表は苦手だという生徒のために、ハードルを下げる効果もあると思います。例えば「皆の前に出るのは抵抗があるが、手元のiPadに書き込むことはできる」という生徒。それならiPadを見ながら自席で発表してもらって構いません。もちろん画面は電子黒板で共有できます。
町田校長「電子黒板を使った授業は1時間が早い」という生徒もいて、集中力がより高まることが窺えます。また、耳から入ってくる情報よりも、視覚情報のほうが集中しやすいと感じる生徒もいます。こうした生徒にとっても、電子黒板は助けになるでしょうね。
薮崎先生教科書の指定したページを開くように言葉で指示した時、すぐに開ける生徒もいれば、数字に苦手意識があるためにパッと対応できないという生徒もいます。また、ページを開いても、その中のどこを見ればいいのか今一つピンとこないという生徒も。そういった時に、該当のページが電子黒板に表示されていて、さらに私が見るべき場所を指し示してあげることができれば、非常に良いサポートになります。言葉で受け止めて表現するのが得意な子、苦手な子……、それぞれにやりやすい入り口を用意してあげることには意義があります。手段が増えるのはいいことですね。
薮崎先生中学校では1人の教員が同じ授業を何度も繰り返します。板書の内容は各クラス共通ですから、毎回新しく書き起こす必要はありません。先の授業ですでに用意していたデータがあれば、それを使って授業をより効率化できます。また、保存したデータは例えば欠席した生徒のためにプリントアウトして活用することもできますね。
薮崎先生本年度はコロナ対策として休校が重なり、授業数が減ってしまったという背景があります。そのため、限りある時間を有効に使うために、できるだけ無駄を削減してスリム化できるよう考えました。そこで板書に目をつけました。先生が板書をしているのを待つ時間というのは、やはり生徒にとっては無駄なものです。削減できるものならしてしまいたいということで、休校中の時間を活用し、私のほうですべての板書を用意しておきました。これがあればやはり進みが早くなります。用意した板書はその場で写してもらってもいいですが、プリントとして配布すればさらなる時短にもつながります。
薮崎先生自分の授業ではどういう場面で使えるだろうかと、よく話題になっています。来年度からさらに電子黒板の導入が進みますので、様々な教科で活用の幅が広がっていきそうです。すべてを一律に電子化というわけにはいかないでしょうが、すべきことを取捨選択して、よりよい手法を見つけていくことが必要と考えています。
町田校長 これから社会に出ていく生徒たちの能力、思考力を鍛えるためにも、教育現場のICT化は急務です。電子黒板についてはこれから本格導入が進みますが、それを使い教える教員側の研鑚も求められています。薮崎先生ら若手が中心となり活用を進めてくれること、期待しています。
荒井指導主事私の専門は技術科でして、自身が携わってきた授業の経験から、視覚で伝える重要性は認識しています。従来から現場では、大型ディスプレイやプロジェクターなど様々なツールを使って視覚に訴える授業をしてきたかと思いますが、これからは単なる視聴に留まらず、インタラクティブな方向での活用に期待したいですね。初声中学校では薮崎先生らが試行錯誤しながら、率先してICT化に取り組んでくれていまして、非常に心強く思っています。今後も期待しています。
※iPadは、Apple Inc.の商標です。
※理科ねっとわーくは、文部科学省 国立教育政策研究所長の登録商標です。