取材日:2019年12月3日
1946年の創業以来、電線事業をはじめとし、産業発展の基盤となる大切なライフラインを担い、インフラを支える北日本電線株式会社(宮城県仙台市)。知的財産防衛の有効な手段である先使用権制度の活用に向けて、アイ・オー・データ機器のタイムスタンプソリューション「eviDaemon」組み込み済み 2ドライブアプライアンスBOX APX-TSFI/5Pを導入。選定に至るまでの背景と利用状況を研究管理室の三浦俊範(みうらとしのり)様にお話を伺いました。
三浦様当社は戦後まだ間もない1946年(昭和21年)に設立されました。北日本電線株式会社の社名のとおり電線の製造・販売が主体の会社ですが、設立時は戦災復興資材が関東、関西を中心に集まり、東北は供給が薄い状況でした。そのような中、(資材が無いなら)自分たちで造っていこうと気概を持って始まったのが当社のスタートだったと聞いております。
三浦様現在は「社会の繁栄に貢献する価値の創造」を経営理念に、大切なインフラを支える「電線事業」、融雪や床暖房で暮らしを安全・快適にする「ヒーティング事業」、産業をささえアシストする「エンジニアリング事業」、最先端技術で社会貢献を果たす「光デバイス事業」の4つの事業を主体として大切なライフラインを担っています。
三浦様私は現在(取材時2019年12月3日)研究管理室に所属しており、主に研究と知的財産(知財)の管理を担当しています。
三浦様それまでもこれらの業務はありましたが、会社として独立した管理部門を置いて強化していこうという目的で設置されたものです。当社には様々な技術やノウハウ、特許などの知財があり、これらの無形資産をどのように整理、活用していくのか、そういった道筋をつくっていくのも研究管理室の役割だと感じています。
三浦様私自身は、2017年に異動となり、そこから本格的に知財に関わってきました。さらに遡れば、2013年頃から新規事業開発の部署で、特許をもつ企業とのアライアンスや特許出願の際に弁理士さんとのやりとりを経験し、社内では知財に詳しい方だと自信を持っていました。
三浦様いいえ。それは当時の私の思い上がりで(笑)、いざ知財の担当者になると全く専門用語がわからないことに気が付きました。当社の電線事業は国内ビジネスですが、光デバイス事業部は海外との取引も多くあります。私の最初の業務が海外への特許出願だったのですが、その際に弁理士から「パリルートにしますか、それともPCTにしますか」と聞かれてもその意味がわからなかったのです。
三浦様よく考えてみると、以前の部署のときは知財担当者ではなかったので、弁理士が私にもわかりやすいように説明をしてくれていたんですね。知財については変に自信があったので、この出来事はとてもショックでした。
三浦様まず知財について法律と制度の理解が出来てなかったですし、たとえ知識があったとしてもそれは断片的で全く全体を網羅できていないことに気が付きました。知財担当者として全くの知識不足で、腰を据えて学ばないといけないと感じました。
三浦様「知的財産管理技能士」という国家資格を取得しました。
三浦様この資格取得のための学習過程で知財に関する様々な制度やそれらを活用した戦略があることを知りました。例えば「オープン・クローズ戦略」は、特許出願・公開で特許権を取得する「権利化」や公開特許公報、公開技報等による公表による「公知化」の他にも、営業秘密として秘匿、先使用権の確保による「秘匿化」など様々な選択肢があることも理解することができました。ここで初めて「先使用権制度」があることを知ったのです。
(ご参照)特許庁 先使用権制度
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/senshiyo/index.html
三浦様当社では事業の「防衛」を目的とした特許出願が多いのです。他社に特許権を取得されると当社が製造や販売ができなくなりますし、特許侵害の警告を受けることも想定されます。そのような事態を防ぐための一つの方法として、他社に先んじて自社が特許を出願してきました。
三浦様そういった意味では先使用権制度を理解し、活用することで特許を取得するという権利化以外の防衛手段を得ることになります。本制度は特許庁もウェブサイトや冊子で詳細を説明するなどしているわけですから、知財管理において有益であることは間違いありません。資格取得の学習過程でその重要性を理解できて良かったと感じています。
三浦様先の話どおり、当社はそれまで、特許出願=防衛であり、それ以外の防衛手段がない、つまり知財防衛をするためには、特許出願をするしかない状況でした。
三浦様では、全ての技術やノウハウを特許出願できるのかと言えば、そうではありません。ご承知のように特許出願には費用が発生します。また防衛が主な目的ゆえに、その特許取得が有効だったのかどうかの判断が難しく、当然、費用対効果の議論にもなります。さらに特許出願は発明内容が公開されるというデメリットがあります。そのような背景の中、特許出願以外の知財防衛力も必要だという思いが強くなってきました。
三浦様特許出願以外の知財防衛力向上策、それが「オープン・クローズ戦略」の活用です。ただその活用にも課題がありました。クローズ戦略(秘匿化)では発明を出願しないため、ノウハウが公開されない、また特許出願費用がかからないことがメリットですが、秘匿化したノウハウを用いた製品に対して他社から特許権侵害の警告を受けた場合、対抗し難いという課題がありました。
三浦様特許権侵害訴訟において先使用権の抗弁が認められるためには先使用権の証拠、つまり第三者的な証明が必要です。当社はその手段を持ち得てなかったのです。
三浦様タイムスタンプです。秘匿化された資料の証拠力を高める手法としてタイムスタンプがその一つであることは、先の特許庁が発行した先使用権制度の小冊子にも記載があります。知財戦略として秘匿化を選択した場合、訴訟等で自分たちの権利を主張する上で、技術情報の保有時点を第三者的に証明しておくことが重要です。その証明のためにタイムスタンプを利用することを考えました。
三浦様タイムスタンプは、信頼できる時刻を利用した電子文書の証拠性を確保する技術で、電子文書が①スタンプ時以前に存在していたこと(存在証明)と②スタンプ以降改ざんされていないこと(非改ざん証明)を第三者的に証明するしくみになります。これらの証明が先使用権の立証に役立つと思い、当社にも導入したいと考えました。
三浦様まず、社内への説明が必要だと考えました。私自身は理解できても会社や上司にこの状況をどのように説明すべきか悩みました。知財それ自体のわかりにくさがあります。さらに先使用権制度の活用がどれだけ有効なものなのか説明も必要です。
三浦様そのように考えていくと、ゆっくり小さく始めた方が良い。初期費用が安価な方が導入のハードルは低くなります。
三浦様そのような時に、アイ・オー・データ機器のタイムスタンプソリューションを知り、興味を持つようになりました。
三浦様仙台には、企業の知財担当者等が集まる勉強会があるんですが、そこで先使用権制度がテーマに上がった際に、タイムスタンプを導入している企業があったのです。早速、話を聞いたところアイ・オー・データ社のもので、使い勝手も良いとのことで大変興味を持ちました。
三浦様まず、アイ・オー・データ機器の担当者に当社へ出向いてもらい、タイムスタンプソリューションとはどういうものなのか説明をお聞きし、デモンストレーションを実施いただきました。
三浦様一方で私の方は、他のタイムスタンプソリューションサービス、また従来からある公証人役場で確定日付を付してもらう手法などの比較表をつくり、それぞれのサービスのメリット・デメリットをまとめ、社内の理解に努めました。
三浦様まず利用者数やスタンプ数に関係なく、5年間タイムスタンプ押し放題というのが大きな決め手の一つです。5年間という制限はありますが、その間、様々な技術やノウハウ資料には、とにかくタイムスタンプを付与すれば良いので、利用は効率的かつスムーズです。
三浦様初期費用は必要ですが、押し放題であることを踏まえて1ヶ月換算すると十分安価です。また、運用も非常に簡単で、指定のフォルダーにファイルをドラッグ&ドロップで入れさえすれば、後は自動的にタイムスタンプが付与されます。
三浦様もちろん設置が簡単なことも重要です。既存のシステムに変更や影響を与えることなく、インターネット環境があるルーターと接続し設定するだけで利用できること、また、PC一台ごとにソフトをインストールする必要がなく、アクセス権限があれば、どのPCからも利用できることなど運用面の良さが挙げられます。
三浦様上司からも「初期費用のことだけを考えず、運用しやすいものを選択するように」と背中を押してもらったことも有り難かったです。
三浦様もちろん、知財に力を入れている他企業で導入していたのも決め手の一つでしたが、それ以外にも社内で知財に対する重要性、その理解の高まりがあったことは大きな背景です。例えば、光デバイス事業部は、海外との取引も多いため、もともと知財への関心も高く、これまで以上の取り組みの必要性を感じていました。
三浦様振り返れば電線を中心に作ってきた会社が1980年に光ケーブルの製造を開始し、その加工技術をもとに、2000年に光デバイス事業部が発足され、時代の最先端に対応する技術とノウハウを蓄積してきましたが、そもそも光デバイスはガラス加工によって製造されており、それまで電線で培ってきた技術とは全く違います。また海外取引も多いため、知財に関しては相当、神経をすり減らしてきたのではないでしょうか。
三浦様今後はさらに知財防衛という意味でも企業経営における知財部門の役割は大きくなる気がします。研究管理室が創設されたのも、知財の重要性の高まりを象徴しているように思います。
三浦様公証人役場での確定日付取得という方法は特許庁の小冊子にも掲載されていますし、確かなものであることは間違いありません。ただ実務的なことを考えれば、公証人役場までの往復と手続きの手間や、また、タイムスタンプのように扱いが容易ではなく、どの技術をどの段階で確定日付を取得するのかなど考慮しないといけないことが多くあります。
三浦様今回の目的は今まで当社が持ち得なかった知財防衛の強化で、さらに書類が電子化してきていることを考慮しても、タイムスタンプの採用は自然な流れでした。
三浦様現在、まだ全社ではなく、一部の事業部にて試験運用している段階です。試験運用で運用に課題が無いか洗い出しを行っています。また、私には全社の技術資料が集まってくるので、そういった資料には私がタイムスタンプを押すようにしています。
三浦様個人的にはデモンストレーションで感じたとおり操作性はスムーズでタイムスタンプも押し放題なので良い状況です。
三浦様ただ、本装置を導入した際、システム部門から言われた「道具ではなく、運用が大事」という言葉が印象に残っています。ドラッグ&ドロップするだけとはいえ、技術者にとっては、これまでの業務の流れに作業が増えるわけですから、なるべく負担にならない運用方法を模索しています。
三浦様試行している部門から何点か要望が挙がってきています。これらの要望に対応し、より良い運用方法が構築できればと考えています。また今後、全社で運用開始となれば事業部ごとの運用状況を把握したいと考えています。要望としては管理機能面のアップグレードです。例えばタイムスタンプの打刻のログが取得できると、それに応じて事業部へ運用に関するアドバイスができますので是非、検討をよろしくお願いします(笑顔)。
三浦様はい。先使用権制度を活用することで当社の知財管理水準や防衛力の底上げに繋がると考えています。この時期は来期に向けて各事業部から様々な研究テーマや技術資料が私のところに集まってきています。検討段階の資料でもタイムスタンプを押すことで時系列の整理かつ第三者的証明ができることは心強いです。
三浦様もちろん、全ての発明の保護を先使用権確保だけで済ませるということは考えていません。
三浦様当社は毎年、数件の特許出願をしていますが、特許出願は開発者、技術者のモチベーションにも繋がっており、引き続き弁理士の先生方とも連携をとり、出願すべき発明は出願していきたいと考えています。
三浦様先使用権制度の利用と特許出願、双方を活用した知財戦略で、会社の発展に貢献していきたいと思います。
三浦様当社の主力市場である電力市場は、発送電分離など、大きな変革期にあります。今後のビジネス環境として、エビデンスを重視する流れは強まる一方だと思っています。今まで以上に知財の管理は必要となっていくでしょう。
三浦様またニュースで知ったのですが、領収書のペーパレス化など、経理業務の帳票処理にもタイムスタンプを活用していくような話も耳にしました。社会全体として生産性向上の取組も加速していくと思います。
三浦様本商品のように便利なサービスを取り入れることで、手間を増やさず、業務品質を向上できれば、それに越したことはありません。さらに運用を深め、戦略的に活用できるようにしていきたいと思います。
三浦様今は技術者からの提案があって初めて発明があったことを知る流れですが、時間を生み出して、技術者との対話からもっと発明の発掘ができれば良いな、と考えています。
三浦様制度や法律など、小難しいことを言うだけではなく、対話を通じてより良い選択肢や方向性を提示できるような知財担当者をめざしています。
三浦様導入前は存在を知らなかったのですが、製品の動作状態を管理するNarSuSというサービスもとても便利で、助かっています。動作状況を常に監視して、動作が怪しいところやアップデートも通知してくれるので楽です。利用者のことを考えた技術やソリューションを今後も期待しています。